2018年06月08日(金)
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超高齢社会を迎え,変形性関節症(osteoarthritis, OA)は大きな社会的問題となっている.疼痛の原因として,軟骨の摩耗が挙げられてきた.運動器疾患ゆえ,生命予後にまで影響を与えないとも考えられてきた.臨床現場では,関節痛が最大の愁訴であるため,非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)が処方され,無効例には人工膝関節置換術(Total knee arthroplasty, TKA)が勧められてきた.最近の研究で,NSAIDsの長期処方が心事故の原因となることが示唆された.さらに,欧米を中心とした爆発的TKA症例増加を契機に,TKAの反省が生まれてきた.すなわち,術後に残る膝関節痛の問題である.
現場が望むことは,OA進行を抑制(修飾)する新規薬剤Disease Modifying Anti-OA Drugs (DMOADs)の開発である.ヒアルロン酸に代表される関節内注入療法に,その効果が期待された.しかしながら,各OA治療ガイドラインの記載には不一致が認められる.さらに薬剤開発における最大のツールである「疾患マーカー」の問題もクリアされていない.OAは従来肥満を基とする,関節に対する機械的負荷が最大の原因とされてきた.しかし,近年の研究は,「慢性炎症」がその基盤であることを明らかにした.このパラダイムシフトに伴い,DMOADs開発戦略や臨床治験の進め方に変更が余儀なくされた.
最近の流行は,ロコモティブシンドロームに代表される運動療法に向かいつつある.近年OAそのものが,メタボリックシンドロームの一部と考えられるようになり,改めて運動療法と慢性炎症の関係が注目されるようになった.
最近,再生医療の有用性が喧伝されている.OAの領域でも,軟骨欠損に対する間葉系幹細胞移植が広く行われてきた.その問題点を解説するとともに,胚性幹細胞やiPS細胞の将来性に言及する.
本講演では,これらの最新の知見をふまえ,臨床現場からの要望にこたえる新薬開発のヒントを提供したい.
1.はじめに
1-1 変形性関節症(OA)の症状,診断,評価法
1-2 有病率(市場)
2.現場の誤解
2-1 軟骨が減るから痛い
2-2 遺伝疾患である
2-3 命まで取られない
3.新薬開発のヒント
3-1 現場が望むこと
3-2 消炎鎮痛剤の現状
3-3 パラダイムシフト
4.ガイドライン
4-1 その問題点
4-2 グルコサミンの敗北
4-3 ヒアルロン酸の立ち位置
5.人工膝関節置換術(TKA)の反省
5-1 急増するTKA(海外の現状)
5-2 術後に残る膝関節痛
5-3 オピオイドという「麻薬」
6.新たな薬剤DMOASsへの挑戦
6-1 ADAMs阻害剤の足跡
6-2 関節マーカーの現状
6-3 動物実験の位置づけ
6-4 現在進行中の治験
7.治験デザインの工夫
7-1 Flair upという魔物
7-2 プラセボとの戦い
8.最近の流行
8-1 運動療法の再興
8-2 行動認知療法が流行る理由
8-3 続ける工夫:遠隔診療
9.再生医療の黎明
9-1 間葉系幹細胞の隆盛
9-2 iPS細胞は何処までとどく
10.未来に向かって