原料の多様化が望まれるなか、メタンを化学品原料に直接変換する技術の必要性が認識されている。それはメタン直接変換反応の実現を目指した研究に費やした時間と労力が如実に示している。しかし、未だ工業化への道は極めて厳しい。現実的には天然ガス(メタン)の殆どはエネルギー源として発電などの燃料として利用され、化学品原料の製造に利用される割合は全体の10%程度である。一方、メタンを利用するときには二酸化炭素排出量の問題を避けては通れない。メタンや二酸化炭素の利用を「技術トレンド」として捉えるのではなく、新しい反応を生み出す為の 『研究スピリット』 と位置付けたい。本講演では特にメタンの直接変換反応のなかで、炭素−炭素結合や炭素−酸素結合生成の反応機構とその反応を引き起こす触媒作用とに焦点を絞る。即ち、メタンを反応できる状態にして、それに続く炭素−炭素結合や炭素−酸素結合を生成する反応に望まれる触媒性能について解説する。
1.不活性なメタンおよび二酸化炭素の化学原料への変換
2.メタン転化反応の鍵を握る反応中間体 •CH3, :CH2, CH3+,CH3-の生成
3.酸素非共存下でのメタン転化反応
3.1 超強酸触媒によるメタンからのCH3+生成と炭素−炭素結合生成反応
3.2 ゼオライト触媒によるメタンからのCH3+生成と炭素−炭素結合生成反応
4.酸素共存下でのメタン転化反応: •CH3および :CH2を反応中間体とする炭素−酸素結合生成および炭素−炭素結合生成反応
二酸化炭素を積極的に燃料や化学品の原料として用いなければならない。二酸化炭素は炭化水素の酸化した最後の生成物であるので,燃料や化学品に転換するには還元剤が必要である。還元剤として用いることのできるのはメタン(天然ガス)と再生可能エネルギー由来の水素しかない。欧州ではPower to gas プロジェクトが展開され始めた。二酸化炭素と水素からメタノールも合成され始めた。二酸化炭素とメタン, 水素をキーワードとした最新の触媒反応を解説する。コストにも言及したい。
1. 二酸化炭素利用
1.1 炭素税
1.2 CO2回収精製技術
1.3 CCSの現状
1.4 CO2の炭酸塩としての固定
2.二酸化炭素から化学品の製造
2.1 海外動向
2.2 Power to gas
ⅰ) 逆シフト反応
ⅱ) メタン化反応
ⅲ) CO2の電解還元
2.4 二酸化炭素から燃料の合成
2.5 二酸化炭素から化学品の合成
ⅰ) メタノールの合成
ⅱ) DMEの製造
ⅲ) ポリオールの合成
ⅳ) ポリカーボネートの製造
ⅴ) 軽質オレフィンの合成
ⅵ) 芳香族の合成
ⅶ) アルカリ金属水素化物とCO2の反応
2.6 バイオマスによる二酸化炭素利用
ⅰ) 藻によるエタノール合成
ⅱ) 古生菌によるエタノール合成(Lanza Tech)
ⅲ) バイオファティライザー
3.天然ガス・メタンの利用
3.1 メタンから合成ガスの製造
ⅰ) ATR(オートサーマルリフォーミング)
ⅱ) コンパクト水蒸気改質
ⅲ) ドライリフォーミング (メタンとCO2から合成ガスの合成)
3.2 合成ガスから液体燃料
ⅰ) 小型FT合成プロセス
ⅱ) 合成ガスからエチレン、プロピレンの直接合成
ⅲ) 合成ガスから芳香族の製造
4.メタノールケミストリー
4.1 メタノールから化学品の合成
4.2 DMEから酢酸, エタノールの合成
5.二酸化炭素による化学品製造の経済性
5.1 CO2価格
5.2 化学品製造コスト
ⅰ) メタン製造コスト
ⅱ) メタノール製造コスト
ⅲ) 酢酸製造コスト
ⅳ) エタノール製造コスト
6.水素
6.1 電解水素
6.2 メタン分解によるCO2フリー水素製造
ⅰ) 溶融金属によるメタン分解
ⅱ) 触媒によるメタン分解
ⅲ) マイクロウェーブによるメタン分解
ⅳ) 人工光合成による水素製造
6.3 水素輸送・貯蔵
ⅰ) 有機ハイドライド
ⅱ) アンモニア
7.水素製造価格
8.燃料電池自動車の現状
9.人工光合成による化学品の合成