脳腸相関とは、生体にとって重要な器官である脳と腸が相互に密接に影響を及ぼし合っていることを示す概念である。例えば、われわれはストレスを感じるとお腹が痛くなり、下痢や便秘などの便通異常を生じる。これは脳が自律神経を介して、腸にストレス刺激を伝えるからである。脳から腸へのシグナル伝達(脳→腸シグナル)が存在していることを示している。逆に、腸管粘膜の炎症やバリア機能障害により、脳での不安感が増し、行動や食欲などが変化することが知られている。これらは、腸の状態が脳の機能にも影響を及ぼすことを意味している(腸→脳シグナル)。このように密接に関連する脳と腸であり、脳腸相関研究の歴史は古い。では、なぜ今、機能性食品の分野でこの脳腸相関が注目されているのであろうか?
第1には、この脳腸相関を理解する上での新たな主役としての腸内細菌叢(腸内フローラ)の情報である。腸内フローラの異常を示すディスバイオーシスといった概念も登場している。このディスバイオーシスを改善させる最も有効な方法は食を含めた因子であることが明らかになりつつある。
第2には、脳や代謝に影響を与える消化管ホルモンの発見ならびに創薬としての臨床応用がある。食欲の制御においても新知見が次々と見つかっている。当然ではあるが、消化管ホルモンと食には密接な関連性がある。
第3には、脳腸相関の異常と考えられる機能性消化管疾患の増加がある。機能性消化管疾患患者の生活の質(QOL)は極めて悪く、適切な医療を受けられていない現状もある。本セミナーでは、日本人腸内細菌叢の現状、脳腸相関の新知見、機能性食品開発におけるポイントなどを出来るだけ具体的に解説したい。