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食品の冷凍保存技術の発展には目覚ましいものがある.しかしながら,その技術を支えるはずの科学には未発達な部分が多く,とりわけ品質評価に関する知見は体系的な整理が遅れている.その理由には,冷凍食品特有の事情がある。本来、品質評価では,それぞれの被評価物に対し,適切な理論に基づいた信頼性のある評価法を選択することが肝要なのだが,冷凍食品の場合,食材・素材が多様な上に,一つ一つの凍結・保管・解凍過程(および解凍後の状態)の特性が異なるため,諸条件を考慮し適切な品質評価法を採択することが極めて難しくなる.
本講座では,そうした状況を鑑み,冷凍食品における品質評価法を体系的に解説していく.具体的には,まず,冷凍から解凍までの各過程における品質劣化現象を概説し,その後,一つ一つの品質評価法について具体例や実例を挙げながら解説する.また,時間が許せば,食品冷凍技術の新しい科学的知見とそれらの応用利用展開の可能性についても紹介したい.
Ⅰ.冷凍食品の物理的・化学的・生化学的ダメージ
【凍結過程】
食品種(溶液,エマルション,ゲル,動物・植物組織)
【保管中】
氷結晶の再構成・成長,霜の発生,乾燥,色調の変化
【解凍過程】
解凍時間と解凍温度履歴,タンパク質変性,ドリップ
Ⅱ.凍結‐解凍過程の評価(組織観察による評価技術)
1.SEM,Cryo-SEM
2.凍結置換法による氷結晶粒の観察
3.ビブラトームによる生切片の新観察法
4.簡易短時間凍結切片作成法(川本法,コーティング法)
5.凍結切片の偏光観察
6.凍結ステージ顕微鏡
7.マイクロスライサー顕微鏡法
8.MRI,X線CT
9.画像の定量的分析手法(氷結晶粒径解析,氷結晶形状の評価)
Ⅲ.品質評価法~食材・品種による適切な手法の採択~
1.簡易手法
① ドリップ量の測定
② テクスチャー(硬直度)の測定【動物,野菜】
③ 色差判定法(色差計,写真判定)
2.化学的,生化学的手法
① メト化測定の新簡易手法
② K値(魚介類)測定の新簡易手法
③ 活度判別の酸化還元電位(ORP)
④ タンパク質変性 ATPase活性
3.物理化学的評価手法
① デンプン老化(X線回折法,DSC,BAP法)
② タンパク質変性(DSC)
③ NMRによる食品中水分の動態評価(例:生鮮野菜の凍結ダメージ評価)
④ 水分吸着等温線による水和状態変化の把握